平面巡回セールスマン問題に対するAroraの多項式時間近似スキームを原点として、これを実用的な解法に応用するための研究を種々の角度から行った。主な研究成果は次の通りである。 (1)Aroraの動的計画法の効率的実装:Aroraの動的計画法における部分問題を形の良い括弧式と対応させることにより、それらが簡潔に表現できることに着目し、部分問題とその子問題とのマッピングを高速に行う方法を開発した。素朴な実装と比べて2桁程度の速度向上が得られ、Aroraの動的計画法の利用法について種々の実験をおこなうことが可能になった。 (2)平面に配置されたグラフに対するカタラン分割の概念の導入とそれに基づいた動的計画法の開発:Aroraの動的計画法における平面の長方形分割をグラフの位相的な分割で置き換え、その上で(1)の高速化手法を適用した。 (3)与えられた巡回路を改良するための交代閉路寄与法の開発:改良すべき巡回路(主巡回路)と参考にするべき複数の巡回路(寄与巡回路)が与えられたとし、主巡回路と各寄与巡回路との差異を交代閉路の集合として取り出す。これらの交代閉路のいくつかを主巡回路につけ加えたグラフに対する最適巡回路を、主巡回路の改良となっているという期待のもとに、求めるのが交代閉路寄与法である。交代閉路群の選択は、個々の交代閉路のフリップによる利得と、すべてを主巡回路に付け加えたグラフの解きやすさを基準に行う。 (4)強化連鎖Lin-Kernighan法の開発:(2)、(3)の手法を連鎖Lin-Kernighan法に適用して、大幅な性能向上を達成した。
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