研究概要 |
我々は本研究において、水に関する非常な重要な3つの問題を解決した。 (a)水の氷化過程(NatureのCover Article,March 28,2002)、 (b)水・氷中のプロトン移動の分子機構を解決し、(c)最近、最も注目されている5次の非線形分光法スペクトルのシミュレーションに成功し、その物理的帰属を明らかにした。 (1)水の結晶化の分子機構の研究:我々は、世界で初めてシミュレーションによる純水の結晶化に最近成功した。非常に長時間のシミュレーションを行い、長い導入時間の後、結晶核が急速に生じることを見つけた。初期核の生成機構や、氷化にかかわるポテンシャルエネルギー面が大域的には漏斗型をしていることなどを見つけた。 (2)水分子の集団運動を直接観測するのための新しい分光法の開発:液体の中の集団運動を観測するための実験手段として5次非線形分光法(2次元ラマン分光法)に注目し、そのスペクトルがいかなる物理的現象に対応しているかを、初めてシミュレーションを用いて明らかにした。そのスペクトルのシミュレーションを行い,それをもとに、Fleming(米国カルフォルニア大学バークレー校の)グループによる最近の実験データーの中から5次のスペクトル成分を抽出することに成功した。さらに、そのスペクトルが、どのような溶液内分子間運動の特性を反映しているかを明らかにした。 (3)氷中のプロトン移動の分子機構の解明:氷中のプロトンでは、非常に長距離からの(氷の水分子からの)溶媒和が非常に重要であり、その移動のポテンシャルエネルギー面を計算するためには約10,000個の水分子を含めることが必要である。それら水分子からの溶媒和の微妙なバランスにより速いプロトン移動が起きており、このバランスは、いわゆる「氷則」から生まれているがことが分かってきた。
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