補助金により購入したレーザーを用い、レーザー誘起過渡回折格子(TG)法の新しい展開を行った。フェムト秒から秒のオーダーに渡る広い時間スケールでの測定により、以下のような従来得られなかった新しい側面を見い出すことができた。 1、 どういう機構で、またどういう速度で光励起された分子のエネルギーが溶媒の熱エネルギーに変換されているのか。この光励起後のエネルギーの流れの素過程を解明するために、新しい原理に基づいた手法を開発した。この原理を温度グレーティング、温度レンズと名付け、水溶液系での測定を行ったところ、光励起後数ピコ秒ですでに温度上昇が終わっているという速い熱放出過程を見い出した。 2、 更に有機溶媒中での速い熱放出過程を捕えるため、音響信号のピーク解析法という新しい解析法を提出し、幾つかの有機分子に適用した。熱放出と溶質-溶媒間相互作用との関係を研究した結果、有機溶媒においては、2つの異なった速度で温度が立ち上がっていることが明らかとなった。 3、 同時に、ヒーター分子と、温度計分子を組みあわせたシステムで、高時間分解能かつ分子サイズでの高空間分解能をもった測定を可能とした。このシステムを用いて、ヒーター分子より放出されたエネルギーが、どの様な過程で熱になり、溶媒内を広がっていくかを解明しつつある。 4、 イオンラジカルと中性ラジカルの拡散の比較、不対電子を2個もつカルベンの拡散、あるいは水溶液系でのラジカル拡散の特徴などを研究し、拡散の分野でも多くの成果を上げることができた。例えば、不対電子対を2つ持つカルベン分子では、通常のラジカルと比べて更に拡散運動が遅いという、驚くべき現象が見い出された。また、並進拡散だけでなく、回転緩和にも同様な効果が現われるがどうかを調べるため、パルスESRを用いたスピン緩和の実験を行ない、解析を進めている。
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