レーザー誘起過渡回折格子(TG)法の新しい展開を行い、以下のような新しい側面を見い出すことができた。 1、分子エネルギーから熱への素過程 光励起後のエネルギーの流れの素過程を解明するために、溶媒の熱エネルギーをピコ秒の時間分解能で検出できる幾つかの手法を開発した。この結果、有機溶媒中においては、数psと数10psの2つの異なった速度で温度が立ち上がっていることが明らかとなった。2つの時定数は、溶質溶媒間の相互作用で決まる速さと、溶媒間を熱が逃げていく速さに対応することや、温度上昇を再現するためには、励起された分子の周囲の溶媒に均等にエネルギーが移るのではなく、数個の溶媒分子に選択的にエネルギー移動が起こっていることを示唆する結果を得た。更にマラカイトグリーンという有機分子のエネルギー放出速度に、数mM程の濃度において溶質濃度依存性を見出した。この濃度依存性をイオン間の相互作用のためエネルギー移動が効率的になったためと解釈した。また2つの分子が静電的相互作用している電荷移動錯体における、熱化速度を検討した。その結果、意外なことに中性分子のエネルギー変換速度とそう大きくは異なっていないことがわかった。 2、分子運動の量子性効果 拡散過程を、過渡回折格子法を用いることでミリ秒からマイクロ秒の時間で検出し、活性分子の拡散過程を研究した。この結果、多くの過渡ラジカルに置いて拡散定数Dは、安定分子よりもかなり小さいことがわかった。またこの検出システムを、更に短寿命種に適用できるよう改造し、励起三重項状態におけるDを、多くの分子について測定した。その結果、多くの分子で、励起三重項状態においては基底状態よりもわずかだがDが大きいことがわかった。
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