今年度は「単一高分子鎖の凝縮転移の平衡論・速度論」の課題で研究を行い、進展があったのでそのうちの主要な業績を報告する。 これまでに、本研究グループではDNA分子のコイル-グロビュール転移が不連続な相転移であることを蛍光顕微鏡による直接観察によって発見した。また、シミュレーションを用いて一般に硬い高分子のコイル-グロビュール転移(単分子凝縮)が不連続な転移であり、その凝縮体はトロイド状態が熱力学的に安定でロッド状態は局所安定状態であることを明らかにした。そして、マルチカノニカルモンテカルロシミュレーションを用いることで、コイル-グロビュール転移が連続的な転移から不連続な転移に変わる臨界点の近傍で、ロッド状態が熱力学的に安定な領域が存在することを新たに発見した。そのような状態が存在する硬さでは、温度を下げると平衡状態の高分子のコンフォメーションがコイル状態からトロイド状態とロッド状態の共存状態へと変わり、更に温度を下げるとロッド状態のみになる。臨界点の近傍では高分子の要素(セグメント数)の有限性により、複数の凝縮状態が共存する領域が存在することも明らかになった。 このように高分子鎖の硬さを変えるだけで、多様な凝縮構造をとるという結果が得られた。DNAに限らず、長鎖高分子は上記のような平衡構造をとることが期待できる。今年度得られた平衡状態の凝縮構造の相図をもとに来年度は速度論を明らかにすることを主な目的として研究を進めていく予定である。
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