研究概要 |
今年度は、(1)積分方程式理論に基づく溶質分子の新しい電子状態理論の開発とその応用、(2)電荷の分極効果を考慮に入れた分子モデルの構築と水の赤外、ラマンスペクトルの理論計算、(3)RISM-SCF法に基づく溶液内の光化学過程の研究を主に行った。(1)では、溶質・溶媒間の相互作用ポテンシャルや相関関数を多重極展開する第一原理的な方法に基づいて溶質分子の電子状態を求める新しい理論的方法(molecular Ornstein-Zernike SCF法)の開発を行った。先ず、この方法のテストとして、水溶媒中の水分子とフォルムアルデヒド分子に対して計算を行ったが、得られた結果は良好であった。(2)では、CRKモデルを用いて、水分子に対して3 site、5 siteを作り、水の赤外とラマンスペクトルのシミュレーション計算を行った。結果は、3 siteモデルでは水分子の面外方向の分極を考慮にいれることができないため、遠赤外、ラマンスペクトルの実験結果を再現することができないが、5 siteモデルでは良く再現することが分かった。(3)では、N,N-ジメチルアミノベンゾニトリル(DMABN)の励起状態における分子内電荷移動反応について反応の自由エネルギー面の計算を行った。溶媒としては、アセトニトリルを選んだ。結果としては、基底状態、第一励起状態ともジメチルアミノの内部回転に対する自由エネルギー面は極めて平坦であり、電荷移動反応は溶媒の再配向により駆動されることなどが分かった。また、state averaged CASSCF法を用いて溶媒の再配向エネルギーを求める方法を考案した。
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