水分子が高密度相から低密度相に、ランダムな移動で到達することは不可能であるが、その逆は可能であると考えられる。このため、基準座標に沿ったランダムであるが一連の温度に対応する分子移動を試み、2相の中間状態の状態密度と転移について検討した。温度は、熱力学量などが急激に変化する193、233Kと室温(298K)を加えた3種類の水のMD計算によって得られた6通りの基本構造において振動解析を行い、分子間振動の励起を基準振動座標に沿って分子にポテンシャルエネルギーを与えた。このポテンシャルエネルギーの大きさは基準振動を仮定したときに0から100kJ/molになるように、またその方向は20通りとして、各温度において計9600の励起状態について対応するポテンシャル極小構造を求めた。その結果、193Kでは高エネルギー励起後も元の構造に近くに留まり、付近の極小構造の数は、233Kの場合の約2/3であった。また、高温になるほど励起状態から対応する極小構造への方向は励起の方向とは無関係になることから、より入り組んだ複雑なポテンシャル面を持つものと予想される。 種々の温度における各ポテンシャル極小構造に対応する領域の特徴を明らかにするために、トラジェクトリー上における虚の振動子の数や最急降下経路における変曲点の分布を調べた。その結果、210K前後で、何れの量に関しても大きなギャップがみられ、高温では複雑であったポテンシャル面が低温では単純になっていて、これがfragile-strong転移に対応していると予想される。 さらに、モンテカルロ法とポテンシャル極小化を組み合わせて、高エネルギー状態から低エネルギー状態への経路と配置空間における距離を調べた。完全にランダムな位置と配向から出発して、-53。5kJ/mol程度までは容易にエネルギーが低下するが、以降のacceptの確率はきわめて低く10^<-4>程度となり、また10数分子が協同的に動く必要があることがわかった。最終的に得られた構造はMD計算による低エネルギー構造と類似であり、この状態に到るまでの経路を、128のポテンシャル極小構造とその間の遷移として記述することが可能となった。
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