研究概要 |
本研究の目的は、凝縮相中の化学反応における「溶媒」効果を解明するために、気相の溶質-溶媒クラスターを用いて(1)クラスターサイズによる効果(2)クラスターのミクロな局所構造による効果(3)クラスター内の揺らぎなど運動による効果を解明することである。 本年度は次のような成果を上げることができた。 (1)昨年度製作した飛行時間型質量分析計を用いて、付着溶媒分子(アセトニトリル)数を規定した溶質分子(9,9'^-ビアントラセン)の吸収スペクトルを測定し、それと発光スペクトル・発光寿命測定とを結びつけてこの分子の電荷移動反応における溶媒分子数の効果を明らかにすることができた。即ち、溶媒分子数が増加するに従って溶液中の挙動に近づくが、一様ではなく奇数個が付いたときと偶数個が付いたときとに差があることが観測された。またほとんど吸収帯がシフトしないクラスターも存在し、先の事実と合わせてクラスターの局所構造によるものであると考えられる。 (2)「蒸発」により気相クラスターを生成する方法と全く異なるアプローチとして「エレクトロスプレー」法を試みた。これは、溶液を直接気相クラスターに変換する方法で、質量分析法によるイオン源として広く用いられているが、我々はレーザー誘起ケイ光法など光学的分光法と結合することで新しい情報を得ることを目指した。これにより、アミノ酸などこれまで「気相」では分光的観測が行われなかった分子イオンについても測定が可能となった。
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