研究概要 |
本年度は単一微結晶作製に向けて再沈法における温度,界面活性剤の添加効果を詳細に検討した.その結果,特に60℃,SDS添加の条件で直径50nm,長さ5〜10μmのポリジアセチレン(PDA)繊維状微結晶の生成を確認した.その生成機構として,先に生成したPDA微結晶とPDA微粒子間のエピタキシャル成長が添加されたSDSによって促進されると推定された.また,その励起子吸収位置はPDAバルク結晶とほぼ同じで,π-共役鎖が長軸方向にあることを示唆する.さらに,カチオン性高分子電解質膜とPDA微結晶の累積化によって,その累積時間や回数を制御するとPDA微結晶の単一捕足や濃縮化が実現でき,事実,PDA微結晶が濃縮化された累積膜の三次非線形感受率(Z-Scan法)の増大が確認された.もう一つの単一微結晶作製法として検討しているイオン・トラップ法では,エレクトロスプレーによって色素/アルコール溶液を帯電した微小液滴とし,イオン・トラップの電圧、周波数を適切に選ぶと,10μm程度の液滴を空中に保持することができ,溶媒蒸発により微結晶化される.その過程は液滴からの蛍光および光散乱測定によって高精度な時系列解析が可能である.一方,単一微結晶のモデルでもあるフラーレンはシクロデキシトリン(CD)に内包された場合,エネルギー移動も電子移動もCDによって遮蔽されたが,π-共役系芳香族カリックスアレーンに内包されたフラーレンは全く遮蔽されないことが明かとなった.また,再沈法で作製したフラーレン微結晶の表面に生成した3重項状態はクエンチャーと比較的速い速度で反応するという反応性の差異も明かとなった. これらの研究成果を受けて,次年度は再沈法およびイオン・トラップ法で作製される微結晶のサイズ,形態制御をより確実なものにする一方,単一捕足された微結晶の光操作や分光学的解析,累積膜のパターニング,微結晶の光学特性におけるサイズ効果の理論的解析を展開してゆく予定である.
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