研究概要 |
本研究では、金属または電極から有機化合物への電子移動型反応により、固液不均一界面上で生成する不安定活性種を経由する反応の立体化学を種々の方法により動的制御することにより、通常の均一溶液中ではみられない特異な高立体選択的炭素-炭素結合および炭素-ケイ素結合形成反応を開発した。例えば、芳香族α,β-不飽和カルボニル化合物としてクマリン誘導体を用いて、入手が極めて容易な市販のグリニャール反応用剤状金属Mgを何の前処理も施さずに存在させて位置選択的なβ-炭素-アシル化反応を行えば、β-アシル基とα-水素原子がトランス付加した、熱力学的に不利な立体異性体が92〜98%の高い立体選択性を有して優先的に得られる事が判明した。また、同様な条件下における金属Mgからの電子移動型反応によるクマリン誘導体やジメチル1,2-ジハイドロ-2,3-ピリジンジカルボキシレートへの炭素-シリル化反応においても、極めて高立体選択的に熱力学的に不利な単一の立体異性体だけが得られた。 一方、2-置換-3-クロロテトラハイドロフラン類の電極還元反応による3-ブテン-1-オール類への脱クロル環開裂反応では、cis体からは(Z)体が、trans体からは(E)体が、それぞれ約90%程度の立体特異性を有して得られた。さらに、ジクロロ酢酸メチルと種々の脂肪族アルデヒドの反応性亜鉛陽極を用いた電極還元法によるクロスカップリング反応から、立体選択的に(Z)-α-クロログリシジルエステルが得られた。更に、超音波照射下での電極還元反応では、アセトフェノン類の還元2量体のmeso/dl比の著しい増大や、1,2-ジプロモエタンの還元脱離からのオレフィンのcls/trans比の極度な現象、などの超音波立体化学効果の観測に初めて成功した。
|