研究概要 |
平成10年度では、不斉触媒として様々な触媒反応に対し有用である遷移金属-光学活性ホスフィン錯体を想定し、その反応場の形成に直接関与するリン原子上の置換基として自由度の高い一級アルキル基を有する光学活性ホスフイン化合物の設計及び合成を行った。具体的には、申請者らが開発した遷移金属に対しトランスでキレート配位する不斉配位子TRAPのビフェロセン骨格に着目し、そのリン原子上に様々な一級アルキル基を有する光学活性ジホスフィンalkylTRAPの合成に成功した。 次に、ここで合成したalkylTRAPの遷移金属錯体を合成し、幾つかの触媒的不斉反応に応用した。1. ケトンの触媒的不斉ヒドロシリル化反応 面不斉のみを持つ不斉配位子EtTRAP-Hがケトンの触媒的不斉ヒドロシリル化反応に高い立体選択性を示すことを見出した。中心不斉と面不斉を合わせ持つalkylTRAPでは高い選択性で反応しない基質でも、EtTRAP-Hを用いることにより高エナンチオ選択性を実現した。今まで不斉還元が非常に困難であると考えられてきた2-アルカノン類の還元も、本法を用いることにより77%eeで進行した。 2. テトラヒドロピラジンの触媒的不斉水素化反応 AlkylTRAPがロジウム触媒によるl,4,5,6-テトラヒドロピラジン-2・カルボン酸類の触媒的不斉水素化反応に対し有効であり、光学活性ピペラジン-2-カルボン酸類を与えることを見出した。本反応では、通常では考えられない同じ立体構造を持つ不斉触媒を用いての両鏡像異性体の合成を達成しており、その機構についても核磁気共鳴測定により解明し、当初計画したものとは異なる不斉触媒のフレキシビリティーが関与していることを解明した。 動的立体化学制御による不斉触媒反応としてβ-ケトエステルの高エナンチオ選択的アリル化反応にも成功した。
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