研究概要 |
平成10年度では、遷移金属錯体の金属原子の近傍にフレキシブルな不斉反応場を形成するように設計された光学活性ビスホスフィン配位子alkylTRAPの一般的な合成法を開発し、様々なアルキル置換基をリン原子上に持つ一連の光学活性配位子の合成に成功した。そこで、平成11年度では以下の研究を行い、成果を得た。 1.光学活性配位子alkylTRAP-遷移金属錯体の挙動 AlkylTRAPの遷移金属錯体の溶液中の挙動を、核磁気共鳴スペクトルを用いることにより観測した。まず、[RhCl(CO)]_2とalkylTRAPから調製される錯体に関して2つリン原子の結合定数を観測したところ、リン原子上の置換基の種類に関係なく、いずれの場合もこの光学活性配位子がロジウムに対しトランスでキレート配位することがわかった。また、塩化白金錯体についても同様に検討したところ、トランスキレートとシスキレートの2つの配位形式でalkylTRAPが白金に配位可能であることが判明し、リン原子上の置換基が立体的に小さくなるに従いシスキレート型の錯体の生成が多くなることを確認した。 2.1,4,5,6-テトラヒドロピラジンの触媒的不斉水素化 上記のデータを基に、alkylTRAP-ロジウム錯体触媒による1,4,5,6-テトラヒドロピラジンの触媒的不斉水素化を試みた。本反応ではリン原子上にイソブチル基を持つ配位子が最も高い選択性を示し、最高97%eeでエイズ治療薬の原料となるピペラジンカルボン酸を与えた。また興味深いことに、リン原子上にメチル基を持つ配位子を用いた場合選択性が反転し、逆の立体の生成物が85%eeで得られた。核磁気共鳴スペクトルにより、上で述べた配位形式に関するフレキシビリティーがこの現象に大きく関わっていることが判明した。
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