遷移金属錯体では、そのレドックスプロセスに特有な一電子酸化または一電子還元反応を誘起できるため、一般にラジカル中間体生成のための有用な方法を提供する。錯体配位圏内において、特異的配位に基づいた反応の立体化学が制御できれば、従来難しいとされてきた高立体選択性を電子移動型反応において発現できると考えられる。 ピナコールカップリングにおいてジアステレオ選択性やエナンチオ選択性が発現できれば、Sharpless酸化と相補的合成手法としてvicinal炭素の立体化学制御が可能になると考えられる。さらに、触媒的に活性種を生成できれば、より有用な手法になるが、未だ方法論がない。バナジウムなどの前周期元素や希土類元素の特性を最大限に活用することで、対応する新規合成手法を開発してきた。 バナジウム触媒存在下、亜鉛との可逆的レドックス過程がクロロシランを存在させることで誘起されることを明らかにした。さらに、アルデヒドのカップリングではdl体が高選択的に生成することが判明した。一方、イミンの触媒的カップリング反応も効率的に進行することが見い出されたが、ジアステレオ選択性に関しては逆にmeso体が優先した。このバナジウム触媒系において、各々の成分が互いに相互作用しながら反応に関与している。新たに共存還元剤としてアルミニウムを用いることもできたが、この還元剤の違いも反応性に反映した。アルミニウム共存系では必ずしもシクロペンタジエニルバナジウム銘体を用いる必要がないことが確認された。 低原子価の希土類元素のレドックス過程も有効であるかを検討し、有機溶媒中での希土類イオンの機能を光反応挙動を含め研究している。上記の場合と同様にクロロシラン存在下、希土類金属のみでジアステレオ選択的に還元的カップリング反応が起こることが見い出された。
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