遷移金属錯体は一電子還元反応を誘起することができるため、ラジカル中間体を生成できる。さらに、特異的配位に基づいた反応の立体化学が制御できれば、高立体選択性を発現できると考えられる。既に我々は、バナジウム触媒/共還元剤/クロロシラン系によるジアステレオ選択的な還元的炭素-炭素結合形成のための触媒システムを開発してきた。アルデヒドの触媒的カップリングではdl体が高選択的に、イミンのカップリングではmeso体の生成が優先した。本研究では、前周期低原子価遷移金属/還元金属/添加剤からなる触媒系について、種々の組合せを検討した。ベンズアルデヒドの高立体選択的ピナコールカップリング反応を目指し、触媒としてCp2VC12をを用い、亜鉛、無水酢酸を共存させ反応を行ったところ、アセチル化されたピナコールが得られた。ジアステレオ選択性に関しては、VOC13で最も良い結果が得られた。cat.VOC13/Zn/Ac2O系を用い、種々の芳香族アルデヒドのピナコールカップリング反応を検討したところ、いずれの場合にも反応は良好に進行した。 バナジウム触媒と同様な条件下、四塩化チタンを触媒に用いても、ピナコールカップリング反応は良好に進行した。バナジウム触媒では機能しなかったアルミニウムも共還元剤として用いることができた。バナジウム触媒系に比べ、ジアステレオ選択性は向上した。アシル化剤として、塩化アセチルを用いても反応は進行し、ジアセテートが得られた。ただし、dl/meso比は76/24となり、無水酢酸共存系に比べ立体選択性は低下した。cat.TiC14/Al/AcCl系は種々の芳香族アルデヒドのカップリング反応に有効であった。 以上のように、アシル化剤共存下、バナジウムまたはチタン触媒によるピナコールカップリング反応は、ジアステレオ選択的に進行した。
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