研究概要 |
分子間相互作用の動的な観点からの理解とその利用は、従来法と異なった新規反応の開発に不可欠である。今年度は分子間相互作用と立体制御について研究を行い、以下の成果を得ることができた。 1) サレンマンガン錯体は不斉酸化の優れた触媒であり、その高い不斉誘起はサレン配位子の非対称的立体配座に起因することが推測されていたが、その配座を制御する要因が不明であった。今回、サレン錯体のX-線構造解析を行い、マンガンイオン上に配位した水分子とサレン配位子の相互作用が配座決定に重要な役割を行っていることを見いだした(香月、伊藤、入江)。 2) アンフィフィリックな分子間相互作用に基づく鎖状立体制御法の開発を目指し,1)エポキシアクリレートを用いる立体特異的不斉四級炭素構築法,2)エポキシスルフィドを基質とし二重立体反転を伴う立体特異的アルキル化反応及びアルキニル化反応を開発した(宮下)。 3) メソ型化合物は不斉中心を持つものの鏡像体が存在せずアキラルであるため、これを不斉補助基として利用することは原理的に不可能とされて来た。しかし、メソ型ジ置換ピロリジンを補助基とする反応でその配座を制御することにより不斉誘導が実現できることを初めて見いだした(川端)。 4) パラジウム触媒を用いて、無保護グルカールのシアン化トリメチルシリルによる立体選択的C-グリコシル化反応を検討した。反応性の低いとされる2位置換グルカールでも反応は円滑に進行し、対応するシアノ糖が、α体を優先して高収率で得られた(林)。 5) 固体塩基の存在下、ジメチルチンジクロリドのような有機スズを触媒とすれば、l,2-ジオールをケモ且つステレオ選択的にモノベンゾイル化できることを見いだした。本反応は1,3-ジオールに比して15倍以上の速度で進行し、また、モノアルコール溶媒中でも起こることがわかった(松村)。
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