研究概要 |
分子間相互作用の動的な観点からの理解とその利用は、従来法と異なった新規反応の開発に不可欠である。今年度も分子間相互作用と立体化学制御について研究を行い、以下の成果を得ることができた。 1)サレンマンガンおよびルテニウム錯体は優れた不斉触媒であり、その高い不斉誘起能はサレン配位子の柔軟な立体配座に起因すると考えられる。今回、これらの金属錯体のX線構造解析を行い、サレン配位子の配座制御要因を明らかにすることができた。また、この知見に基づいて従来説明が困難であった各錯体の基質特異性を明らかにすることができた(香月、伊藤、入江)。 2)立体特異的鎖状分子構築法として,新たにtrans-エポキシアルコールのC-2位選択的アジト化反応,二重立体反転を伴う立体選択的アルキニル化反応およびアルミニウムアート錯体を用いる2,3-エポキシアルコールのC-2位選択的アルキル化およびアルキニル化反応を開発した(宮下)。 3)外部不斉源を用いないα-アミノ酸誘導体の不斉α-アルキル化を検討し、Phe,Trp,Tyr,Val,Leu,Dopa,Hisについて78-93%ee(立体保持)、78-96%収率で不斉α-メチルが進行することを見出した。反応中間体として動的な軸性不斉を持つキラルエノレート(ラセミ化の障壁:16.0kcal/mol)の存在が示唆された。(川端)。 4)遷移金属触媒を用いた糖質化合物の立体選択的合成研究では、D-グルカールからワンポットで3-ケト-シアノグリコシドが高収率で得られるようになった。このワンポット合成の鍵となるPb/Cエチレン系によるアルコール触媒的脱水素化は一般の二級ベンジルアルコール、アリルアルコールの酸化にも広く適用可能であることも判明した。(林)。 5)触媒量の光学活性ジアルキルチンジハライドおよび炭酸ソーダなどの固体塩基の存在下にベンゾイルクロリドと1-アルキル-1,2-ジオールを反応させると、2位モノベンゾイル化が高収率で起こること、さらにこの系に少量の水が存在すると高い不斉収率で速度論的光学分割が起こることを見いだした。(松村)。
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