超弦理論の強結合領域の研究の発展は、弦理論のもつ構造の豊かさを明らかにしてきた。超弦理論の示唆する素粒子の統一模型の研究も、こうした発展を受けて従来の枠をこえた可能性を模索しはじめている。こうした状況の中で、超弦理論の最近の発展を動機とし、この新たなパラダイムに基づく統一理論の現象論的研究を進めるのが、本研究の目的である。 本年度は、当初の計画にほぼ従って主にヘテロ型M-理論にもとづいた研究を行なった。これまでの成果のうち特筆すべきものとして(1)M理論に現れるアクシオンの宇宙論的な影響、特に宇宙の密度揺らぎに対する影響に関して、詳細な検討を行ない、将来の観測で検証ざれ得ることを示した(2)M理論の示唆する超対称粒子の質量スペクトルに関して、弱結合の弦理論の場合と比較検討し、その現象論、および宇宙論的な特徴を考察した、ということがある。また、弦理論は一般に、デラトンやモジュライと呼ばれるスカラー場の存在を予言するが、これに関し、(1)デラトン場の安定化に対するR対称性に基づく新しい提案を行なった(2)モジュライ場の崩壊によるグラヴィテーノの過剰生成の可能性について議論した。 さらに、I型超弦理論においては、弦の典型的なスケールがITeVぐらいになる可能性が許されるが、この場合の現象論的な帰結に関する研究を始め、これまでにWボソンのカルザークラインモードがフェルミ結合定数に与える影響などに関して議論をした。 これらの成果は論文、あるいはプレプリントとして公表している。
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