研究概要 |
フォトニック結晶は異なる媒質の多次元的な周期構造であり,適切な設計を行えば複雑なブラッグ回折効果によって光りを強く制御することができる.究極的には自然放出が制御された無しきい値レーザ,強力な光閉じ込めをもつ光配線が実現できると期待されている.本研究代表者は本研究開始以前に1)インジウム燐系半導体へのサブμm周期2次元フォトニック結晶の試作,2)理論予測されるフォトニックバンドギャップの観測,3)発光特性の変調効果の評価,という3つの研究を進めていた.しかし半導体加工技術が不足していたために1)では十分な構造を形成することができず,2)3)の評価が中途半端な状況であった.この問題を解決するため,本研究では誘導結合プラズマエッチングと呼ばれる新しいエッチング法を導入した.これによりインジウム燐系半導体のサブμm加工では過去最高のアスペクト比(縦横比)15以上という鋭利な加工を実現し,ほぼ理想的な2次元フォトニック結晶を形成することに成功した.そこで直接光励起法によりフォトニックバンドギャップを観測したところ,理論とよく一致する特性を得た.さらに発光特性の中でもフォトニック結晶の効果として最も重要な発光寿命特性を,位相差検出法を用いて測定した.しかしながら構造の微細さと発光寿命の関係は単純に表面損失効果の依存性を示し,期待したフォトニック結晶の輻射場制御効果はその陰に隠れた形となった.一方,この測定結果と発光強度に関する一連の測定データを併せて評価したところ,光の放射効率の特異な振る舞いが明らかになった.すなわち,未加工のウエハからの放射のおよそ22倍にまで増大していた。次年度は表面損失効果の低減をはかりつつ,この放射率増大の機構を解明する.
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