研究概要 |
マルテンサイト(M)変態は"原子の拡散伴わずにその連携的な運動により引き起こされる一次の構造相転移"である。M変態は固相変態の物理を明確に出来る現象として、盛んに研究が行われている。また、Mは構造材料である鋼を強化すること、さらに形状記憶効果や擬弾性と関連しているため実用面からも非常に重要である。この変態は系に与える外場(温度、応力、静水圧、磁場)に著しく影響を受ける。本研究では、特に磁場がM変態に及ぼす影響について調べるとともに、磁場を利用した新しい機能材料の創製を行った。 (1)M変態温度に及ぼす磁場効果 多くの鉄基合金のM変態温度に及ぼす磁場効果を詳細に調べ、変態温度M_sと磁場の関係は次式で表せることを導いた。 ΔG(M_s)-ΔG(M'_s)=-ΔM(M'_s)・H_c-(1/2)・χ^p_<hf>(Ms')・H^2_c+ε_o・(θω/θH)・B・H_c ここで,ΔG(=6^p-G^m)は母相(G^p)とM相(G^m)のGibbsの自由エネルギー差、ΔMは両相の自発磁化の差、H_cは臨界磁場、χ^p_<hf>は母相の高磁場帯磁率、ε_0はM変態時の体積変化、ωは強制体積磁歪、Bは母相の体積弾性率を表す。 (2)磁気弾性M変態の出現 オースエイジを施したFe-Ni-Co-Ti合金は、A_f(逆変態が完了する温度)以上の温度で変態擬弾性を示す。したがって、熱弾性型M変態におけるそのような温度と応力の効果を考慮すると、A_f点以上の温度で磁場の印加・除去に伴いM晶が生成・消滅する磁気弾性M変態が実現される可能性があり、事実、それを見いだした。すなわち、温度・応力だけでなく磁場によっても、形状記憶合金の制御が可能であることがわかった。 (3)Mのバリアントの磁場制御と巨大磁歪 近年、強磁性形状記憶合金において、磁場によりMのバリアントが制御でき、その結果大きな磁歪が得られることが見出された。我々は、Ni_2MnGaならびにFe-Pd合金のM状態において[001]_P方向(Pは母相の意味であり、この方向がM状態における磁化容易軸のひとつになる)に磁場を印加すると、磁場方向を磁化困難軸とするバリアントは、その方向を磁化容易軸とするバリアントへとほぼ完全に変換されることを確認した。さらに、磁場によるバリアント変換により大きな歪が現れる合金として、Fe_3Pt単結晶を見出した。Fe_3Ptの可逆的な磁歪の大きさは約0.6%であり、この大きさはTERFENOL-D(現在実用化されている巨大磁歪材料)における磁歪の大きさの3倍以上である。
|