研究概要 |
鉄鋼の連鋳プロセスにおけるモールド内対流の流動制御とか、単結晶成長におけるルツボ内融液対流の磁場印加対流制御などの磁場利用プロセスは、鉄鋼の高品位化や、単結晶の高純度化をめざして今後益々多用化される機運にある。しかし、これらの利用形態は従来、試行錯誤的で、理論的裏付けが不十分にみえる。本研究では、各種磁場対流現象と動作流体の流動現象の定量的把握とその制御を試みた。現在、電子集積回路の基板材料のほとんどは、シリコン単結晶で作製され、その良否が電子回路の最終歩留まりを大きく左右すると言われている。原料シリコン融液は、低プラントル数流体で、本質的に振動対流をなすことが知られている。そのため、単結晶中に成長縞と呼ばれる結晶構造や不純物濃度などの不均部分が内蔵され、その後の製造過程において、種々の不都合を与えている。そこで、この原因となる原料融液の熱流動状況の把握と制御をめざした。 まず、チョクラルスキー単結晶成長融液の熱流動特性を解析した。対象とした系は、高さH,直径1.25H,結晶棒直径0.625Hでルツボは高温に加熱され、結晶棒は低温に保たれ、自由表面からは輻射冷却されるものとする。融液の非定常三次元流動は保存方程式でモデル化される。流体はインジウムアンチモン(InSb)の融液である。計算の結果、軸対称な境界条件を持つ円筒容器内に一つの大きなロールが存在することが予測された。さらに本系に、水平方向に一様な磁場が印加された場合、等温線は軸対称な境界条件にも拘わらず、磁場に直交する断面から液面に流れがあふれて、磁場に平行な断面に液が流下している。底部近くではこれが逆転することを見い出した。これは先にkajigayaらにより報告された楕円柱型GaAs単結晶の成因を説明するものとなった。 次に超伝導磁場下における鉛直円管内の酸素の対流拡散現象について調べた。即ち、超伝導電磁石のボア内に50mmφ×600mmの円筒容器を入れ、酸素を満たし、その後、円筒容器の上下端を大気に開放し、円筒容器中央部で酸素ガス濃度の経時変化を測定した。その結果、磁場がないときは、酸素濃度は200秒で、外気と同じ濃度に急減した。一方、2T,4Tと磁場を大きくしていくと、酸素濃度の減少速度は低下し、10T,12Tではほぼ拡散速度で減少していった。2000秒後に30%位に降下した。ついでこの現象の数値解析を行った。その結果、中央高さにおける酸素濃度の減少特性は、実験結果と極めて類似した特性を示した。磁場がない時、酸素の分子量は空気のそれより大きいため、上下端開放により、急激に酸素は流出してしまう。ところが、磁場があると、酸素の磁化率が大きいため、円筒上半分が空気、下半分が酸素という状態になった時、大きく磁化力が働き、酸素が中央部に引き戻され、その後振動を繰り返しながら、酸素濃度が、減少していくことが判明した。これは実験事実を極めて良好に説明すると共に、我々の用いたモデル方程式の正しさを証するものとなった。 その他、チョクラルスキー結晶成長におけるカスプ型磁場効果、回転磁場効果、ゼーベック効果、磁化力による擬似無重力空間の創成と解析など、多数の成果が得られた。
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