ホスホリパーゼD(PLD)は種々のアゴニスト刺激により活性化され、ホスファチジルコリンから脂質性シグナル分子、ホスファチジン酸を生成する。我々はPLDの生体内における機能を個体レベルで検討する目的でショウジョウバエよりPLDを単離し発生過程における関与について検討した。ショウジョウバエの初期胚ではPLDのmRNAは産卵直後から多核性胞胚期において蓄積していたが、細胞性胞胚期、嚢胚期前期には検出されなかった。また、PLD活性については幼虫、蛹、成虫で活性が検出されたが、産卵後6-9時間の胚発生初期にPLD活性の検出されない時期があった。これらの事から、胚発生の一時期にPLD活性が低下することが重要である可能性が示唆された。ショウジョウバエPLDは低分子量Gタンパク質のARF(ADP ribosylation factor)による活性化が中程度の感受性を示すことや、ショウジョウバエPLDと緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein、GFP)との融合タンパク質が膜に局在することからショウジョウバエPLDタンパク質は哺乳動物のPLD2型であることが示された。 ショウジョウバエPLDの生体内での機能を探る目的で、形質転換動物での強制発現実験を行った。ショウジョウバエPLDを3令幼虫の眼の成虫原基で発現させて成虫の複眼の形成に及ぼす効果について検討したところ、個眼の形態に異常が見られ複眼の規則正しい構造が乱れた。このことはショウジョウバエPLDの過剰発現によって複眼の細胞の分化決定に影響を及ぼすことを示唆している。 本研究によってショウジョウバエPLDが発生過程でも重要な機能を果たしている可能性が明らかになった。
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