研究課題/領域番号 |
10212208
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
工藤 一郎 昭和大学, 薬学部, 教授 (30134612)
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研究分担者 |
有田 斉 塩野義製薬(株), 創約第二研究所, 所長
村上 誠 昭和大学, 薬学部, 助教授 (60276607)
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キーワード | ホスホリパーゼA2 / シクロオキシゲナーゼ / プロスタグランジン / アラキドン酸 / リン脂質 / ビメンチン / ヘパラン硫酸プロテオグリカン / リン酸化 |
研究概要 |
哺乳動物細胞には、通常mMレベルのCa^<2+>を活性発現に必要とする数種の分泌性PLA2(sPLA2)と、μMレベルのCa^<2+>で活性化する細胞質PLA2(cPLA2)が存在する。我々は、これらCa2+依存性PLA2のうち、特定の分子種のみが効率良くプロスタグランジン(PG)産生系と連関することを明らかとし、その効率を規定するPLA2相互作用因子の探索を行い、以下の結果を得た。 1)cPLA2の活性化機構:cPLA2が細胞活性化に伴う細胞質Ca2+の一過的上昇に伴って核周辺膜に移行する機構を明らかにするため、cPLA2結合蛋白を探索した。その結果、cPLAのC2ドメインがCa^<2+>依存的に中間径フィラメント構成蛋白であるビメンチンに結合することを見出し、ビメンチンが核膜周縁のcPLA2アダプターとして機能していることを強く示唆する結果を得た。また、cPLA2の活性化におけるリン酸化の関与について検討し、従来より知られているMAPキナーゼ類によるSer505のリン酸化に加え、MAPキナーゼの下流に位置するMNK-1によるSer727のリン酸化もcPLA2の活性化に必須であることがわかった。 2)sPLA2の活性化機構:現在までに同定されている10種のsPLA2分子種のうち、ヘパリン結合性のsPLA2(IIA,IID型)は細胞表層のGPIアンカー型ヘパラン硫酸プロテオグリカンであるグリピカンに結合し、炎症刺激に伴ってカベオラに集積した後、核周辺膜に局在性を変化させることを明らかにした(ヘパラン硫酸依存的経路)。この局在性の変化がこれらsPLA2分子種による刺激依存的なPG産生を亢進に寄与するものと予想している。一方、ヘパリン非結合性のX型sPLA2は細胞外から形質膜表面のホスファチジルコリンを効率よく加水分解することによりアラキドン酸代謝を亢進した(形質膜外層経路)。sPLA2-Vは細胞種に応じてヘパラン硫酸依存的経路と形質膜外層経路の両者を同時または優先的に駆動した。また、sPLA2の作用様式には分子種の差異に加えて動物種による違いが認められれた。例えば、ヒトsPLA2-IIEはヘパラン硫酸依存的経路を作動するが、マウスsPLA2-IIEは酵素活性そのものが著しく弱く、アラキドン酸代謝を惹起できないことが明らかとなった。また、sPLA2の組織発現様式は動物種間で大きな違いが見られた。このことは、個々のsPLA2遺伝子改変マウスを用いた個体レベルの解析が必ずしもヒトに適用できないことを意味しており、今後の研究方針の慎重な検討が必要である。
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