イトマキヒトデ卵母細胞では、減数分裂中に分裂装置を移動すると、動物極に限らずどこの表層でも極体ができることを減数分裂第一でも第二でも示した。つまり、分裂装置に対し、卵母細胞の表層は同じ反応をするのである。このことを利用して、分裂装置と表層の位置関係を変化させて、表層の反応を調べることにより分裂シグナルについて考察した。マイクロ操作法により、ガラス針を用いて分裂装置を動物極から離し、別の表層に近づけた後、ガラス針を抜いて分裂装置を放置した。その後、分裂装置は表層へ近づく場合と表層から離れる場合とがあった。分裂装置は表層の形態変化がある前後で観察できなくなった。この過程をビデオ装置により記録し、分裂装置の極のうち表層に近い方と表面との距離とし、観察できなくなる直前の距離を測定した。10μm以下の距離では、極体が形成されるか、表面が膨らんでから元に戻った。20μm以上では、すべて凹んだ。10-20μmでは、これら三種類の反応が混在した。極体形成時、表層ではアクチンが減って表面力が低下するので、分裂装置は10μm以下の距離では、表層のアクチンを減らして表面力を低下させることがわかった。逆に、20μm以上では、分裂装置は表層のアクチンを増やして収縮を起こさせて、表面をへこませていることが示された。このように、分裂装置は分裂シグナルを放出して、中心体から近いところにはアクチンを減らし、遠いところではアクチンを増やして収縮環を形成させるといった、2重のはたらきをしている。これは分裂シグナルが2種類あることを示すことを意味するのかもしれない。
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