私共は、これまでにシナプス小胞輸送の制御系としてRab3A系とDoc2系を発見し、これらの分子群が神経伝達物質放出を調節していることを明らかにしている。本研究ではRab3A系については活性制御蛋白質(Rab GDIα、Rab3 GEP)の、Doc2系についてはDoc2のノックアウトマウスを用いた個体レベルの解析を中心に研究を進め、以下の成果を得た。1.Rab GDIαのノックアウトマウスの解析より、Rab GDIαはRab3Aによるシナプス小胞輸送の過度の促進を抑え、神経の過剰興奮を抑える作用を有することを見い出した。2.Rab3 GEPのノックアウトマウスでは、横隔神経終末のシナプス小胞の減少とアクティブゾーンの形成不全が認められ、その結果、出生直後に呼吸不全で死亡することを見い出した。3.今一つの活性制御蛋白質Rab3 GAPのサブユニットを発見し、その特異抗体で共に免疫沈降されるシナプス小胞蛋白質Rabconnectin-3を見い出した。この蛋白質は、Rab3 GEPにも結合し、シナプス細胞質に存在するRab3 GEPとGAPをシナプス小胞膜上にリクルートすることによって、Rab3Aの時間的・空間的な制御に働くと考えられた。4.神経細胞を用いた実験系により、Doc2はMunc13と結合してシナプス小胞のプレシナプス膜へのdockingの過程を制御することにより神経伝達物質の放出に機能していることを示した。5.Doc2のノックアウトマウスの解析により、Doc2がshort-term plasticityとlong-term potentiationの形成に機能していることを明らかにした。このように、本研究では、Rab3A系とDoc2系がシナプス可塑性に関わることが個体レベルの解析で証明されるとともに、その分子機構の一部も解明され、当初の目的はほぼ達成できた。
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