研究概要 |
トランスポゾンは、自身がコードするトランスポゼースの働きにより転移すると共に、遺伝子の再編を促し、ゲノムを改変する。本研究は、バクテリアの数多くのトランスポゾンにより構成される三つのファミリーの代表で、それぞれ異なる様式で転移する挿入因子IS3、IS1とアンピシリン耐性トランスポゾンTn3の切断・再結合による転移の機構を解明することを目的としたものである。IS3は、特異的な8の字型分子から環状分子として切り出され、直鎖状分子に変換されたのち標的分子に組み込まれるが、これまでにin vitroにおいて、IS3のトランスポゼースが、IS3の末端逆向き配列(IR)に,結合しIRの一方の端をもう一方の端とDNA鎖連結反応を起こすことによって、8の字型分子が生じること、この反応には2つのトランスポゼース分子と両端のIRから成る複合体(トランスポソゾーム)の形成が重要であることを分子遺伝学的に示した。本年度においては、精製したトランスポゼースが一方のIRの末端側ドメインと他方のIRの内側ドメインに結合し、強固で活性のあるトランスポソゾームを形成することをゲルシフトアッセイにより実証した。一方、IS1がコードするトランスポゼースに関して、他の多くのトランスポゾンのトランスポゼースで活性中心とされるD-D-Eモチーフは存在しないと思われていたが、古細菌を含む様々な細菌からIS1ファミリー因子を同定し、それらのトランスポゼースに3つの酸性アミノ酸残基D, D, Eが保存されていることを見出した。本年度においては、これらのアミノ酸残基のいずれのアミノ酸への置換変異がIS1の転移活性を喪失させることを、大腸菌K-12以外で染色体内にIS1を持たない宿主でもそうであることを明らかにすることによって、IS1トランスポゼースがD-D-Eモチーフを活性中心として持つことを確認した。また、IS1のトランスポゼースにはヘリックスーターンーヘリックスと共にバクテリアでは珍しいZinc-fingerモチーフが存在しドメインを形成し、IS1のIR DNAへの結合に関与していることを明らかにした。
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