出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)には、メンデルの法則には従わずにほぼ全ての配偶子に受け継がれるという遺伝的特性を持った、VDE(VMA1 Derived Endonuclease)をコードする遺伝子領域が存在している。VDEは部位特異的エンドヌクレアーゼの活性を持ち、減数分裂時に自己を持たない対立遺伝子側の配列を認識して切断し、次にVDE自身の遺伝情報を使ってDNA修復することにより自己遣伝子の増幅を可能にしている。一方、醇母の体細胞分裂時と減数分裂期においては、Rad51p/Rad54pおよびDmc1P/Tid1pが二重鎖切断の修復に深く関与していることが知られている。そこで、これらの遺伝子破壊株を作成してホーミングを解析したところ、特にDmc1p/Tid1p破壊株においてホーミングが減少し、VDEによる切断断片が修復されずに残っていることが明らかになった。同様に、切断末端DNAの消化の過程に関与する、Mre11p、Rad50p、Xrs2pタンパク質の遺伝子破壊株でホーミングを解析したところ、VDEにより生じた切断末端は消化されておらず、ホーミングが部分的に阻害されていた。従って、VDEのホーミングは減数分裂期の相同組み換え修復に関わる標々の因子によって担われていることが明らかになった。また、ホーミングと減数分裂期組み換えとの類似性から、VDEによる切断と減数分裂期前DNA合成がリンクしている可能性について検討した。ヒドロキシ尿素により、減数分裂期前DNA合成を停止させると、VDEによる二重鎖切断及びホーミングは起きなかった。また、減数分裂期前DNA合成に必要なサイクリンをコードするCLB5、CLB6遺伝子破壊株においては、VDEによる二重鎖切断が著しく遅延していた。以上のことから、VDEによる染色体の二重鎖切断は減数分裂期前DNA合成にリンクしていることが明らかになった。
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