5年の研究期間の1年めである平成10年度に、準備として、転移頻度を数値で表すための実験系を開発しておいた。平成11年度は、これを利用して、転移頻度が上がる条件の探索を行った。メダカのTol2因子は、他の因子と同様に、自然の状態での転移頻度はきわめて低く、転移機構を詳しく調べるためには、転移頻度を上げることが必要となるからである。 転移頻度が上がる条件としての有力な候補は、転移酵素が過剰に供給された状態である。そこで、Tol2因子の転移酵素を合成するために必要となる、転移酵素のmRNAを、メダカの細胞抽出物から単離した。これは、先頭のCAP構造から最後尾のポリA配列までを含む完全長のcDNAクローンとして得られた。このクローンにRNAポリメラーゼをはたらかせるとRNAを大量に合成することができることを確認した。さらに、そのRNAからのタンパク質の合成が可能であることも確認した。 RNAとタンパク質では、RNAのほうが取り扱いが容易であるため、条件の探索にはRNAを使用した。RNAを供給しない場合は、1年めに開発した実験系で転移頻度を測ると、10^<-3>のオーダーであった。これにRNAを、まず適当に見当をつけた量を供給すると、転移頻度が10倍に上がった。これを出発点として、RNAの量、温度、時間などを様々に変えて頻度を測定し、転移頻度が50倍となる条件をみつけるに至った。
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