5年の研究期間のうちの3年めまでに、転移能力をもつことの確認、自律的(autonomous)コピーの探索、転移酵素(transposase)遺伝子の同定、転移酵素の機能の証明を、この順で行ってきた。4年めとなる平成13年度からは、応用としての遺伝子改変系の構築を本格的に始めた。具体的にこの1年で目指したものは、本来のホストであるメダカでの、遺伝子導入ベクターの開発である。 導入する遺伝子を、クラゲの発光タンパク質であるGFP(green fluorescent protein)の遺伝子とした。この遺伝子を内部に組込んだTol2因子のクローンを作り、これをメダカの受精卵に注入した。成魚まで育てて交配し、次世代を得た。この中から、GFP遺伝子を発現しているものがみつかった。次世代でみつかったことから、GFP遺伝子は最初の世代の生殖系列で染色体に組込まれたことになる。ただし、Tol2因子の転移を介してのことであるかどうかは、この結果だけではわからない。 この点を明らかにするために、GFP遺伝子を発現している個体からTol2因子の近辺の染色体領域をクローニングし、塩基配列を調べた。これを分析して、Tol2因子の両側には新しい標的配列の重複が生じていることを確認した。これは新規の転移が起こったことの証拠となる。したがって、GFP遺伝子はTol2因子の転移で染色体に組込まれたことになり、Tol2因子が遺伝子導入ベクターとして機能することが証明された。
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