最終年となる平成14年度は、転移酵素の機能を向上させるための配列の改変と、メダカで開発した遺伝子導入ベクターの哺乳動物への応用を行った。 転移酵素の機能を向上させるには、核移行シグナルの改良が有効であると考えられる。すなわち、転移酵素に核移行シグナルがない場合、あるいはあっても弱い場合に、強力なシグナルを付加することである。このために、まず転移酵素にマーカー遺伝子をつけてその所在を観察し、核移行シグナルの有無および強弱を調べた。この実験からは、核移行シグナルはもたず、逆に核外への輸送を指令するシグナルをもつ、という予想外の結果が得られた。この核外輸送シグナルの強度は、強力な核移行シグナルを付加しても補償できない大きなものであった。このため、転移酵素の機能を向上させるという目標を達成するためには、このシグナルを除くことが必要となった。ただし、除くための改変は、転移触媒の機能を損ねることのないように行う必要がある。これは大がかりな作業となるため、新たな研究テーマとして発展させることにし、本研究の残りの期間は、核外輸送シグナルの部位の探索に集中した。アミノ酸配列の分割と所在の観察を、繰り返し行い、中央部の33アミノ酸に限定するまでに至った。トランスポゾンが核外輸送シグナルをもつという事例は初めてであり、新規の転移制御機構の存在を示唆する興味深い結果となった。 メダカで開発した遺伝子導入ベクターの哺乳動物への応用については、順調に目標を達成した。プロモーターやマーカー遺伝子などを、メダカで使っていたものからヒトに適合するものに取り替え、ヒト培養細胞に導入した。供給源としてのプラスミドクローンからの切り出しも、染色体への挿入が起こることも、順次確認された。
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