本年度は主に、ベルベリンを多量に生産し液胞内に輸送するオウレン(Coptis japonjca)の培養細胞系をモデルとして用いた。本培養細胞は、培地に添加したベルベリンも効率良く液胞に輸送するが、これまでにこの輸送は細胞生長期に特異的で、培地のpH変化に依存せず、細胞内のλ正レベル及び膜ATPaseに依存することを明確にした。また本輸送活性は、種々のP-糖蛋白質の阻害剤で強く抑制され、これに対し液胞膜ATPaseの特異的阻害剤やΔψの破壊では強い阻害が認められなかったことから、改めてこの輸送に対するABC蛋白の寄与を示した。ただし、GSHやその生合成阻害剤ではほとんど影響を受けなかったことから、本輸送にMRPが関与する可能性は低いと考えられた。なお、ベルベリン非生産性の植物細胞ではこの取込み現象は観察されず、むしろ本アルカロイドによる毒性が発現した。即ち本輸送能は植物種特異的なものであり、自身の生産する活性物質に対する植物細胞の解毒機構として働いていることが示唆された。 一方、mdrサブファミリーに共通なATP結合部位の保存配列を利用したRT-PCRと、5'-及び3'-RACEを組み合せることにより、約4kbのmdrl様遺伝子のcDNA全長をクローニングすることに成功した。本cDNA Cjmdr1は1289個のアミノ酸をコードしており、これはヒトのP-糖蛋白質と38%の相同性を示した。Cjmdr1と最も高いアミノ酸相同性を示したのはArabidopsisの機能不明の遺伝子Atmdr3で、67%の同一性を示した。また、そのhydoropathyprofileはP-糖蛋白質と酷似しており、同様のトポロジーを持つと判断された。さらに、ノーザンブロットにより、オウレン培養細胞では本遺伝子は培養期間を通じてほぼ構成的に発現していることを明らかにした。
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