研究概要 |
本年度に本研究で得られた実績は以下のとおりである。 (1) ATP感受性カリウムチャネルのサブユニットであるKir6.lとKir6.2ではそのコンダクタンスがKir6.1では約35pS,Kir6.2では約80pSと異なっている。そこでこの両者のコンダクタンスの違いを調べるためにキメラチャネルとpoint mutationを用いて、1998年に発表されたカリウムチャネルのX線解析の結果を利用して検討した。その結果、Kir6.2の第1番目の膜貫通領域とH5と呼ばれる領域の間にあるSer(113)-Ile(114)-His(115)の部分、および、H5領域と第2番目の膜貫通領域の間にある部分(Kir6.2におけるVal(138))が両チャネルのコンダクタンスの差をもたらしていることが判明した。 (2) SUR2BとKir6.1からなるチャネルについてその性質を検討して、ATP,ADPやGTP,GDPには低濃度でチャネルを開口させる作用、高濃度では逆にチャネルを抑制する作用が見られた。チャネル開口薬のピナシジルはこれらのヌクレオチドの低濃度での開口作用を増強する機能があった。一方、UTP,UDPにはチャネル活性化作用のみが認められ、抑制効果は見られなかった。チャネル開口にはヌクレオチドに依存しない速い開口とUTP,UDPなどによるヌクレオチドに依存する遅い開口があって、ピナシジルはこのうちの後者の活性化を増強することが判明した。 一方、Kir6.1をチャネルサブユニットとするATP感受性KチャネルはATP濃度が低下することのみでは自発開口せず、開口にはUDPなどのnucleotide diphosphateが必要であった。一方、Kir6.2をチャネルサブユニットとするKチャネルの場合はATPの低下のみで開口することができた。そこで、この両者の違いについてKir6.1とKir6.2のキメラチャネルを用いて検討した。その結果N末端側の細胞質ドメインがKir6.lであると自発開口が全くなくなり、また、Kir6.1のC末端側の細胞質ドメインが存在すると自発開口を約50%抑制した。即ち、細胞質にある領域にKir6.1の自発開口を抑制する機能が存在することがわかった。 (3) SUR2BとKir6.2からなるチャネルはピナシジルではSUR2AとKir6.2からなるチャネルの場合と比較すると同程度もしくはやや強い活性化(EC50=〜2μMとEC50=〜10μM)がみられたが、ニコランジルでは約100倍の強い活性化がみられた。このようにニコランジルによる活性化はSUR2のC末端に存在している2番目のヌクレオチド結合ドメインにつながった42アミノ酸残基からなる領域が強く関与していることが明かとなった。
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