研究概要 |
AMはヒト副腎髄質由来褐色細胞腫から単離・精製された降圧利尿ペプチドであるが、その蛋白・遺伝子発現が全身臓器で確認されている。我々は、免疫組織学的手法によりヒト・ブタ・ラットにおいてAMは副腎髄質のほか、全身諸臓器の、主として神経内分泌(NE)組織に分布していることを報告し、AMが血圧調節のみならず多機能な生理作用を有することを示唆した。ヒト正常消化管においてAMは、腺管、特にNE細胞に強い陽性像がみられることから消化管ホルモンとしての機能が示唆された(Ann Clin Biochem,1998)。また、ヒトの萎縮性胃炎におけるAMの変化は、胃粘膜の萎縮および単核白血球の浸潤の程度と相関して減少していることがあきらかとなり、AMの産生と炎症との関連をはじめての示唆した(Histopathology,1999)。 これらの免疫組織化学の結果と蛋白・遺伝子レベルの組織測定結果とに若干の相違が見られたため、3種類の単クローン抗体を新規に作成し、免疫組織学的に再検討を行った。その結果、AMは全身の腺管上皮細胞にも分布していることをあきらかとなった(Histochem Cell Bio1,1999)。また、中耳蝸牛の血管床にAMの発現が認められ、蝸牛の機能調節に関与することが示唆された(J Otorhinolaryngol Relat Spec,2002)。 一方、病的状態、特に正常血管と動脈硬化巣におけるAMの発現の変化を、病理解剖例冠状動脈および冠動脈アテレクトミーサンプルにおいて、免疫組織学的に検討した。AMは正常組織において、すべての脈管(動脈・静脈・リンパ管)の中膜平滑筋細胞に陽性を示すが、動脈硬化巣においてAMは、泡沫細胞では、病変の進行につれ、陽性率・陽性強度の上昇がみられ、逆に中膜平滑筋細胞の陽性率の減少がみられた。特に、粥腫破綻の好発部位である粥腫肩部での泡沫細胞の陽性率が高度であり、粥腫破綻・心筋梗塞発生に関与している可能性が示唆された(投稿中)。 上記の免疫組織学的検討の結果、諸臓器の粘膜および皮膚にAMが局在することから、感染防御への関与に着目し、大腸菌に対して抗菌作用を検討した結果、AMとその前駆体であるPAMPがディフェンシンと同等あるいはそれ以上の強力な抗菌作用を有することを見出した(Exp Physiol,2001)。また、AMが血管内皮細胞に存在することから、血液凝固および線溶系因子に着目し、培養血管内皮細胞におけるAMの影響について検討し、AMが外因系血液凝固の開始因子である組織因子の発現を抑制し、その抑制因子である外因系血液凝固インヒビターの発現を促進することをあきらかにした。さらにPAI-1の発現を抑制、uPAの発現を亢進させ、抗血栓作用を有することをあきらかにした(Atherosclerosis,2000,Cardiovasc Res,2003)。
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