研究概要 |
アドレノメデュリン(AM)の産生調節とシグナル伝達機構を明らかにするため、本年度は、急性心筋梗塞(MI)モデルラットの心臓および新生仔ラット心臓由来細胞の培養系において検討し、以下のような成果を得た。 1.ラット急性心筋梗塞(MI)モデルにおいて、MI後の左室心筋内AM産生を、梗塞部と非梗塞部に分けて検索し、MI後におけるAMの病態生理学的意義を検討した。その結果、(1)梗塞部AM濃度はinfarct expansionの時期に一致して上昇した。一方、非梗塞部AM濃度は梗塞後1カ月間持続して高値を示した。(2)梗塞部AM濃度と異なり、非梗塞部AM濃度は壁応力に伴い上昇した。(3)MI後7日目のAM産生の増加はアンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACEI)により梗塞部、非梗塞部で共に抑制された。 以上の結果、左室内AM産生はMI発症急性期より亢進し、その後、非梗塞部AM産生には血行動態の関与が示唆された。一方、梗塞部AM産生にはレニン-アンジオテンシン系の関与が示唆された。 2.AMの心臓からの産生、分泌調節について、新生仔ラット心臓由来細胞の培養系において検討した。その結果、(1)心筋細胞,非心筋細胞(繊維芽細胞)共にAMを同程度分泌し、AMは両細胞においてcAMPを濃度依存性に上昇させた。このcAMPの上昇はCGRP[8-37]で抑制され、その程度は繊維芽細胞で強かった。(2)アンジオテンシンIIやエンドセリン,フェニレフリンでは心筋細胞,線維芽細胞においてのAMの産生,分泌亢進を認めなかったが、サイトカインであるIL-1βやTNF-αでは両細胞でAMの遺伝子発現と分泌を著明に亢進した。 以上より、心不全時のAMの産生にはIL-1βやTNF-αが関与し、心筋細胞,線維芽細胞で産生されたAMは、オートクリン及びパラクリン因子としてcAMP産生を介して、心不全の病態を修飾している可能性が示唆された。
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