研究概要 |
アドレノメデュリン(AM)は体血管及び肺血管拡張作用,利尿作用,心収縮作用,アルドステロン分泌抑制作用を有する。我々は左心不全や肺高血圧症を伴う右心不全において血中および心臓局所におけるAMの産生が病態に応じて増加することを明らかにし、AMがこれらの病態に深く関与し、代償的に働いている可能性を報告してきた。さらに、動物モデルにおいてAM投与は左心不全や肺高血圧を伴う右心不全を改善させることも証明した。本研究ではAM投与による新しいヒト心不全治療の有効性及び作用機序を検討した。 1)左心不全(CHF)患者7例,健常者(NL)7例を対象に、経静脈的にAM(0.05μg/kg/min)を投与し、血行動態、腎機能、神経体液性因子へ与える影響を検討した。その結果、CHF群,NL群ともに平均動脈圧の有意な低下(CHF:-8mmHg,NL:-16mmHg)、心拍数の有意な上昇(CHF:+5bpm,NL:+12bpm)を認めたが、それらの変化はCHF群で軽度であった(p<0.05 vs NL)。両群で肺動脈楔入圧の有意な低下(CHF:-4mmHg,NL:-2mmHg)、(CHF:+49%,NL:+39%)を認めた。肺動脈圧はCHF群でのみ有意な低下を認めた(CHF:-4mmHg,NL:-1mmHg)。CHF群,NL群ともに尿量,尿中Na排泄量は有意に増加した。両群ともに血漿レニンの変化は認められなかったが、アルドステロンはCHF群でのみ有意に低下した(CHF:-28%,NL:+2%)。これらの結果より、ヒト左心不全においてAMは、血行動態,腎機能,神経体液性因子を介して心不全を改善することが明らかとなった。 2)AMと同様に降圧利尿活性を有し既に心不全に臨床応用されているANPとの作用を比較することで、AM投与の臨床的意義、作用機序を検討した。CHF患者22人を対象に等モル量のAM(0.10μg/kg/min)、ANP(0.05μg/kg/min),及びplaceboを無作為に経静脈的に投与した。AMはANPと比較して、著明な平均動脈圧の低下、心係数の増加(AM:+56%,ANP:+15%)を来した。一方、AM投与による肺動脈楔入圧の低下、利尿作用(AM:+69%,ANP:+114%),Na利尿作用(AM:+88%,ANP:+180%)はANPと比較して軽度であった。AMは血漿cAMPを有意に増加させ、一方ANPはcGMPを有意に増加させた。以上より、AMはANPとは異なったセカンドメッセンジャーを介して、主に心後負荷の軽減,心拍出量増大に働き、主に前負荷軽減に働くANPとは異なった作用機序を有することが示された。
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