リン酸イオンは、植物成長における三大栄養素の一つである。自然界でのリン酸の土壌含有量は極めて小さいため(通常10μM以下)、多くの植物は常にリン酸飢餓状態にある。植物が生理機能を正常に遂行するためには、細胞質リン酸濃度を一定の値に保つ必要がある。この濃度維持機構をリン酸ホメオスタシスと呼び、細胞質のリン酸濃度を一定に保つために、液胞がリン酸のreservoirとして緩衝機能を持つことが知られている。本研究では、液胞がリン酸を蓄える機構および細胞質の必要に応じて液胞からリン酸を放出する機構がどの様に制御されているかを、特に液胞膜のリン酸輸送機構と細胞質のリン酸濃度認知機構に焦点を当てて明らかにすることを目的として研究を行っている。 昨年度までの研究で、ニチニチソウ培養細胞液胞膜のリン酸輸送活性が極めて高いことを見いだし、単離液胞を用いたリン酸取り込み活性測定系を確立することで、リン酸輸送の生理機構、リン酸輸送体のリン酸分子に対する親和性、濃度依存性、阻害剤感受性などを明らかにした。さらにリン酸欠乏下で単離液胞のリン酸取り込み活性が顕著に上昇することを明らかにした。本年度は、このリン酸取り込みに働く液胞膜分子を同定するために、液胞膜リン酸輸送体がBiotinで標識できることを明らかにした。さらに、ゲノムデータと液胞膜のプロテオーム解析のデータが利用できるように、実験材料をシロイヌナズナ培養細胞に代え、そこからの液胞単離技術を確立するとともに、リン酸輸送体の同定を進めるために、ニチニチソウと同様にBiotin標識される液胞膜タンペク質を多量に集めつつある。今後は、このBiotin標識されるタンパク質の構造解析と機能検定を進める予定である。
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