研究概要 |
(1)高度な機能を持つ終脳の発生は,一時的にFGFシグナルに依存していることが知られている.しかし,マウスのfgf8ノックアウトによる表現型とゼブラフィッシュの突然変異体の表現型は明らかに異なっており,Fgfシグナルの詳細な機能に関してはまだ明らかになっていない.本研究では,終脳の発生におけるFGFシグナルの役割を調べるために,ゼブラフィッシュ初期胚におけるRas/MAPKカスケードの活性化領域を活性化型MAPKに対する特異抗体、アンチセンス法による特異的機能阻害などで調べた.その結果,終脳ではFgf3とFgf8は協調的に働いて終脳の腹側領域を誘導すること,中脳・後脳境界ではFgf8が主な役割を担っていることが判明した。重複して発現するFgfの役割分担が神経組織ではじめて明らかになった(Shinya et al.,2001)。 (2)後方神経誘導におけるFgfシグナルの役割をconstitutive-active BMP受容体を用いて明らかにした。ゼブラフィッシュ胚への細胞移植と過剰発現実験を組み合わせることにより,初期原腸胚期ではFgfシグナルがBMPシグナルと直接拮抗して神経分化を誘導すること,またその際には後方神経が主として誘導されることが判明した。この結果は,原腸胚期においてFgfが神経後方化因子と誘導因子の両方の性質を持つことを強く示唆している。さらに、この時期に後方神経領域に隣接した中胚葉で発現するFgf3の機能を調べた結果、Fgf3がchordinなどの神経誘導因子の発現を誘導することと前方神経の発生を抑制することが明らかとなった。従って,原腸胚期のFgfは、細胞内で直接BMPシグナルと拮抗するだけでなく、細胞外でBMPシグナルと拮抗する因子の誘導、前方神経の発生の抑制といった複数の機能を神経の初期発生過程で持っていることが判明した。(Koshida et al., in press)。
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