中脳・後脳境界部は、中脳と小脳の形成においてオーガナイザーの役割を果たすと考えられている。Islet-3のmRNAは、受精後15時間から17時間目の間に、眼と中脳視蓋部に限局して発現し、この領域の特異化に関与すると考えられた。Islet-3のLIM領域は、Islet-3に特異的なドミナント・ネガティブ因子として働き、中脳・後脳境界部の発達を促進する中脳シグナルの伝達を抑制することが示唆された。この領域の形成の分子機構をより深く理解するために、Islet-3によって発現制御を受ける2種類の新規蛋白を同定した。1つは317個のアミノ酸から成るタンパクで、受精後12時間目に前脳で発現が始まり、受精後17時間目までには脳の最背側部で発現する。アンチセンスモルフオリノオリゴヌクレオチド(AMO)の注入により機能抑制を行うと、中脳から後脳にかけての背側部の組織が欠失した。また、これと相同な遺伝子をノックアウトしたマウスでは、大動脈起始部と房室境界部の形成が阻害された。これらの部位の分化はいづれもTGFβシグナルに依存することが知られている。このタンパクは、Thrombospondin typel repeatを持っており、現在Thrombospondinと同様にTGFβシグナルの活性化をとおして、神経系の背側の形成を制御している可能性を検討している。もう一つのタンパクD121に関してもAMOの注入により機能抑制を行うと、中脳・後脳境界部の発達が特異的に阻害された。このような胚では、FGF8を浸したビーズを間脳に移植しても、異所性に中脳・後脳特異的マーカー遺伝子の発現を誘発できなかったことから、この分子はFGF8を介した細胞シグナル伝達に必須であることが明らかになった。
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