我々はゼブラフィッシュ胚で、中脳と中脳・後脳境界部に由来する視蓋と小脳の発生を制御するIslet-3下流で働く新規因子群の探索を行い、2種類の新規蛋白を同定した。視蓋及びMHB形成におけるCnpy1の働きを明らかにするためにアンチセンスモルフォリノオリゴによるノックダウン実験を行ったところ、視蓋の低形成及びMHBの形成が見られなくなることが分かった。視蓋及びMHBの形成にはFgf8が重要な役割を担っていることが知られている。そこで、Fgf8とCnpy1との関連を探るためにFgfシグナルを媒介するリン酸化型(活性型)Erk量について調べてみたところ、cnpy1ノックダウン胚において活性型Erkが減少していることが分かった。正常胚の中脳胞前方付近にFgf8に浸したビーズを埋め込むと、ビーズから拡散したFgf8によって異所的なengrailed2a(eng2a)の発現が中脳胞全体的に誘導される。同様の実験をcnpy1ノックダウン胚において行ったところ、異所的なeng2aの発現がほとんど見られなくなることが分かった。また、Fgf受容体の細胞内ドメインのみからなり、薬剤(AP20187)処理によって二量体化することでFgfシグナルを活性化できるiFGFR1によってもeng2aの異所的な発現を誘導することができる。この実験をcnpy1ノックダウン胚において行ったところ、ビーズ実験の時とは異なり正常胚と同様にcnpy1ノックダウン胚においても異所的なeng2aの発現を誘導することができた。これらの結果から、Cnpy1はFgfシグナルに直接的に関与する因子であり、細胞外で働いていると考えられる。Cnpy1はFgfあるいはFgf受容体と相互作用することでFgfシグナルを促進する働きを担っていると思われる。
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