領域特異的な神経細胞分化および軸索誘導に対するPax-6遺伝子の役割

2001 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 10220209
• 研究種目: 特定領域研究(B)
• 研究機関: 東北大学
• 研究代表者: 大隅 典子 東北大学, 大学院・医学系研究科, 教授 (00220343)
• キーワード: 脳のパターニング / 転写因子 / Pax6 / ラット / 前脳 / 菱脳 / 分節形成 / 神経細胞分化

研究概要

Pax6遺伝子は転写因子をコードし、発生中の前脳や菱脳・脊髄で領域特異的に発現する。本研究では実験発生学的手法と分子形態学的手法を駆使することにより、哺乳類胚において(1)脳分節形成の細胞系譜的解析および(2)脳のパターニングとそれに基づく神経細胞分化と軸索伸長に対するPax6の役割について解析することを目的としている。
本年度は(1)に関しては、前年度までに行った細胞系譜的解析による哺乳類胚前脳の予定運命地図を他の脊椎動物で報告されているものと比較して、脊椎動物に基本的な脳形成のフレームワークを明らかにした(Inoue et al., J Neurosci Res.,2001)。また、脳分節形成・維持の分子機構を明らかにするために、培養哺乳類胚に対する電気穿孔法による領域特異的な遺伝子導入の系を確立し、この系を用いて、終脳の背側(大脳皮質原基)と腹側(線条体原基)の間の境界形成に排他的に発現する2種のカドヘリン(Rcadherinおよびcadherin6)が重要な働きをしていることを明らかにした(Inoue et al., Development,2001)。
(2)に関しては、Pax6遺伝子に突然変異を有する自然発生ミュータントラット表現型の解析を行い、現在、Pax6の下流で皮質ニューロンの放射状移動に関わる因子を探索している。一方Pax6変異ラット菱脳・脊髄腹側において神経細胞サブタイプ分化の異常を明らかにし、Pax6が神経前駆細胞のドメイン形成に関わることを指摘した(Takahashi et al.,2002)。さらにPax6変異ラット表現型の解析および電気穿孔法による強制発現実験による解析の結果、菱脳・脊髄腹側で発現するPax6が分泌性タンパクWntの発現を制御していることを明らかにした(Takahashi et al.,投稿準備中)。

研究成果

• [文献書誌] Inoue, T., Tanaka, T., Takeichi, M., Chisaka, O., Nakamura, S., Osumi, N.: "The role of cadherins in maintaining the compartment boundary between the cortex and striatum during development"Development. 128. 561-569 (2001)
• [文献書誌] Yamasaki, T., Kawaji, K., Ono, K., Bito, H., Hirano, T., Osumi, N., Kengaku, M.: "Pax6 regulates granule cell polarization during parallel fiber formation in the developing cerebellum"Development. 128. 3133-3144 (2001)
• [文献書誌] Inoue, T., Nakamura, S., Osumi, N.: "Current topics in comparative developmental biology of vertebrate brains"Neurosci. Res.. 39. 371-376 (2001)
• [文献書誌] Osumi, N., Inoue, T.: "Gene Transfer into Cultured Mammalian Embryos by Electroporation"Methods. 24. 35-42 (2001)
• [文献書誌] Takahhashi, M., Osumi, N.: "Pax6 regulates specification of ventral neuron subtypes in the hindbrain by establishing progenitor domains"Development. (in press). (2002)
• [文献書誌] Hirata, T., Nomura, T., Takagi, Y., Sato, Y., Tomioka, N., Fujisawa, H., Osumi, N.: "Mosaic development of the olfactory cortex with Pax6-dependent and independent components"Dev. Brain Res.. (in press). (2002)