分子レベルでタンパク質の結晶化機構を研究するため、以下の研究を行った。(1)原子間力顕微鏡(AFM)により結晶成長過程を観察し、ステップの前進速度などの測定量から分子の結合エネルギーなどの分子レベルの物理量を明らかにする。(2)光学的手法を用いて、強磁場下の配向効果のような分子レベルの現象に関係している巨視的現象の測定を行う。(3)既存のAFM技術に改良を行い、分子の表面拡散やステップでの取り込みといった成長に伴う分子レベルの事象を直接測定する。その結果、以下の成果が得られた。(1):不純物分子により、リゾチーム正方晶系結晶の成長が阻害される機構をステップブロッキングモデルにより説明した。また、単斜晶系結晶上のステップ運動の異方性を明らかにした。この異方性は分子間の「マクロボンド」による解析と良い対応を示した。(2):分子の持つ表面電荷及び不純物分子が成長速度に及ぼす効果を明らかにした。結晶成長における磁場効果を調べた結果、磁場による溶液対流の抑制効果を明らかにした。しかし、分子配向のような分子レベルのパラメーターに対する影響は小さかった。(3):直接的な単分子過程の測定を行うため、AFMをコンピュータと結合させ、高速データ取得システムを立ち上げた。これによりタッピング方式で結晶表面の最上層にある分子の移動による高さ変化の情報取得を試みた。しかしノイズが大きく、解釈可能な情報を直ちに得ることが出来なかった。最近の結果では、小さなカンチレバーを使用することでS/N比が向上することが明らかになった。この改良により、単分子を観察することが期待できる。本研究で行った不純物効果と溶液条件や外場による結晶形態の最適化により、高分解能構造決定に値する高品質結晶を得ることができるであろう。さらに、この研究で得られたAFM技術は共晶やエピタキシャル現象を研究するためにも用いられた
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