研究概要 |
われわれは3ヵ年の基盤研究「深海堆積物の変形・続成過程から見た付加体形成の基本原理の研究」を行った.その主たる目的は,深海堆積物の堆積から変形・続成を受けて,付加体に取り込まれ,陸上に現れるまでの,地質作用の総合的研究であり,そのうちの深海堆積物の組織と構造の変化に主眼を置いた.主たる武器は走査型電子顕微鏡であり,これを用いて,微化石の時代,それらを含む深海堆積物の堆積直後から埋没,圧密,変形,続成を受けて,沈み込み帯で付加作用によって陸側にとりこまれ,陸上に現れるまでの変化を見よう,とするものである.その上で,付加体形成に深海堆積物がどのように関連しているかを見極めようとするものである.その大半は今回の一連の研究によって判明した.特に,スメクタイトを含む深海堆積物が,付加作用では決定的役割を果たすこと,そのときにその上下の層準がいかに取り込まれるかの力学的モデルも提出した.それらにおいては,深海堆積物の層準近くに,大小さまざまな規模のデュープレックス構造が発達することが明らかにされた.また,深海堆積物が初期の堆積直後の段階でどのような組織の変化を行うかについて,および珪質深海堆積物における珪質鉱物の初期の変化とチャート化作用については,今回の研究によって,従来の知識を一新した.また,各国の付加体の層序を主として放散虫によって決定した.それは,スコットランドのサザンアプランズ付加体,タイ国,インドネシアなどが含まれる.また,付加体を構成する砕屑物の供給起源について,クロムスピネルを用いた推定に成功した. それらの主な結果を箇条書きにすると,以下のようである.深海での堆積物は地域差が大きい.特に粘土に関してはその地域の個性がある.火山弧の前面にはスメクタイトに富む粘土層があるそれ以外の深海には時代にもよるが,珪質微化石に富む堆積物が多い.スメクタイトに富む堆積層が,付加体の力学境界となることに貢献している.珪質微化石層は海洋域ではゆっくりとした変質・続成しか示さず,主たる変化は付加作用の時に生じる.深海堆積層は付加体形成に決定的役割を担う.深海堆積物はほとんどの付加体に含まれる.その付加体の古地理の復元には,陸源性砕屑物に含まれるクロムスピネルが有用である.深海堆積物の時代決定には放散虫が有用であり,オルドビス紀から第三紀にかけての多くの箇所でそれが決定された.
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