研究概要 |
わが国内外に産出する研究試料の収集・観察・記載,新規に購入した分析機器類の立ち上げ,高温高圧実験装置による鉱物の合成と岩石の部分融解実験を行った.国内での試料採集と野外調査は阿武隈変成帯,領家変成帯,大峰山地などに産出する高度変成岩類と火成岩類を対象に実施した.海外の試料に関しては研究代表者が従来収集してきたノルウェー,オーストラリア,スリランカ,カナダ産の岩石試料に加え,国立極地研究所に保管されている南極や南アフリカ産の試料から選出した.これらの岩石試料には,地下深部で一度化学平衡に達した後の上昇過程において,多様な組成の流体相とさまざまな程度に反応した痕跡が認められる.特に既存の菫青石がアルミニウム珪酸塩(紅柱石あるいは藍晶石)+炭酸塩鉱物(マグネサイト-シデライト)+石英の集合体に部分的に置換されることによって具現される加二酸化炭素反応が従来から知られているスリランカだけでなく,カナダや南アフリカなど世界各地に産出するさまざまな時代の岩石中で進行したことが明らかになった.この加二酸化炭素反応を引き起こした流体は単に二酸化炭素に富むばかりでなく,希土類元素の移動・濃集を引き起こした可能性が高い.また本研究の過程で,大峰山地の火成岩中にホウ素珪酸塩の新鉱物(グランディディエライトと同じ結晶構造を持つが著しく鉄に富み,大峰石と命名予定)が発見され,地殻の中-上部で岩石とマグマや高温の流体相との相互作用におけるホウ素の挙動について根本的に再検討する必要があることが判明した.高温高圧実験では,岩石に少量の水を加えると比較的低温でも鉱物の粒間にそって部分融解が進むが,それは特に石英とその他の各種造岩鉱物との界面で進行し,局部ごとに異なった組成のメルトが形成されることが明らかになった.
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