研究概要 |
昨年度に引き続き,わが国内外に産出する岩石試料の収集・観察・記載・分析,新規に購入した分析機器類の立ち上げ,高温高圧実験装置による鉱物の合成と岩石の部分融解実験を行った.国内での試料採集と野外調査は阿武隈変成帯,領家変成帯,大峰山地などに産出する高度変成岩類と火成岩類を対象に実施した.海外の試料に関しては,南アフリカと中国から新たに収集した.これらの岩石試料には,地下深部で一度化学平衡に達した後の上昇過程において,多様な組成の流体相とさまざまな程度に反応し,また部分的に融解した痕跡が認められる.特に南アフリカの試料からは,流体相に容易に溶けだし,移動しやすく,また岩石の融点を下げる効果を持つと考えられてきたホウ素が一度,無水のホウ素珪酸塩鉱物になると,むしろ融解しにくい物質になることが示唆された.また中国の超高圧変成岩には部分融解を示唆する多様な組織・構造が見られ,100km程度の深度まで押し込められて高密度化した大陸地殻構成物質が上昇するためには部分融解が重要な過程であることが示唆された.一方,新規に購入した分析機器のカソード・ルミネッセンス観察装置によって,大峰山地に産出する火成岩中の石英斑晶に初めて顕著な累帯構造が観察され,地下深部での岩石の部分融解(マグマ生成)の過程について新しい手掛かりが得られた.高温高圧実験では,岩石に少量の水を加えると比較的低温でも鉱物の粒間にそって部分融解が進むが,その時,理論と天然の岩石の解析から期待された不調和融解現象が起こることが実証された.
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