研究概要 |
生体内においては組織間,細胞間,分子間などの様々なレベルでの織別が行われている。これらの識別の機構を理解し,生命体の特異な機能を利用するためには,様々なレベルで行われている識別の最も基本となる超分子生成の分子構造的な機構解明がなされなければならない。しかし,受容体と基質間の超分子の相互作用を理解するための分子構造論的な解析は困難を極める。したがって、溶液中の超分子の正確な構造を求める新規な手段の開発は分子レベルにおける識別の機構の理解に不可欠である。本研究においては、最近われわれが開発したNMRの化学シフトを用いる立体配座解析法を超分子の溶液中の構造解析に拡張し,超分子生成の機構の分子構造による解析法を確立するため以下の研究を行った。平面π電子受容体ゲストを効率良く捕捉するためにフレキシブルな分子ピンセットと称されるホスト化合物を合成し、各種の電子受容体ゲストとの相互作用を解析するすることに成功した。さらに、自己集合型ホストを用いてフラーレンの捕捉と放出を任意に制御することに成功した。この研究を広げてフラーレンとカリクサレンホストの相互作用の熱力学的研究を行い、会合に際して脱溶媒和が重要であることを明らかにすることができた。この解析結果をフィードバックさせて個々のゲストに特異的に結合するホストの設計を行った。カリクサレンホストの開口部に極性官能基であるカルボキシル基を複数もつホストを合成し、そのゲスト捕捉能を検討した。その結果、このホストは溶媒中の水を2分子を捕捉してその構造を保持していることが明らかにされた。このような水の構造保持の役割は各種の生体内酵素で提案されているが、本研究のように人工低分子ホストでも同様な水の役割が明らかにされた例は極めて稀であり、酵素タンパクの構造解析に重要な知見を与えるものと期待される。
|