溶液中に生成するイオンおよび錯体を含む溶媒和クラスター中では、複雑な分子構造をもつ溶媒分子が複数、集合化する結果、溶媒和の立体効果が発生する。溶液反応の活性化状態でも、これら反応分子が会合し、クラスターの再編が行われるので、溶媒和の立体効果が発生する。ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)中でCo^<2+>は一連の安定なクロロ錯体を生成する。特に[CoCl_3(solvent)]^-と[CoCl_4]^<2->はいずれも4面体構造であり、[CoCl_3(solvent)]^-+Cl^-=[CoCl_4]^<2->+solventの反応速度の温度依存性から、活性化エンタルピー、活性化エントロピーを求めた。活性化状態には活性化エンタルピーが支配的であり、活性化エンタルピーが大きいほど、反応速度が遅くなっている。基底状態の熱力学的パラメータから、逆反応の活性化エネルギーも調べた。この結果、基底状態に比べて活性化状態では溶媒和の立体効果が強く起こること、また立体効果の現れ方が基底状態と異なることが見出された。具体的には、この反応では、[CoCl_4(solvent)]^<2->なる構造の5配位活性種を形成する。反応に関わる[CoCl_3(solvent)]^-、Cl^-、[CoCl_4]^<2->のDMFからDMAへの溶媒間移行エンタルピーと各溶媒中での活性化エンタルピーから、活性種[CoCl_4(solvent)]^<2->のDMFからDMAへの溶媒間移行エンタルピーが26kJ mol^<-1>と見積もられ、溶媒和の立体効果が強く働いていることがわかった。活性錯体の溶媒間移行エンタルピーはCo^<2+>-O(DMA)結合が立体効果のためCo^<2+>-O(DMF)結合に比べて長くなることを示唆している。同じ5配位構造でも長い結合距離をもつDMAでは配位子の運動の自由度は低下しないので、活性化エントロピーの減少はDMAの方がDMFよりも少ないことが解った。
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