研究概要 |
子宮は哺乳類にとって、胎児の成長の場としてなくてはならない器官である。内膜、筋層および漿膜からなる子宮組織は、発情周期と同調して増殖と退化を繰り返すだけでなく、妊娠の際は胎盤の形成という劇的な形態変化を起こす。しかし、内膜と筋層はその境界を仕切る基底膜構造を持たず直接接しているにもかかわらず、いかに増殖・肥厚しても自らの定位置を認識し互いの領分を犯さない。マウスで実験的に内膜が筋層に侵入する内性子宮内膜症という病変を引き起こす疾患モデルを用いて、逆に内膜と筋層の定位置維持にかかわる機構を解析するのが本研究の目的である。単離した正常な子宮内膜間質細胞を用いて、子宮筋層中に存在するとされるコラーゲンI,II,IV,V型に対してインベージョンアッセイを行ったところ、どのコラーゲンに対しても浸潤はほとんどみられなかった。しかし、内膜症を起こした子宮間質細胞は、コラーゲンIV型によく浸潤することが判明した。一般的にある細胞群が他の細胞群に侵入する場合、メタロプロテアーゼという蛋白質分解酵素が活性化されて、細胞外基質を分解しながら浸潤していく。そこで、この浸潤過程にメタロプロテアーゼが関わっているかどうかを調べた。その結果、内膜症子宮から得た間質細胞は対照正常細胞に比べて、マトリクスメタロプロテアーゼ活性が高いことが判明した。また、アッセイ系にプロテアーゼインヒビターを添加すると、内膜症から得た間質細胞でさえも浸潤能が失われることも判明した。次いで、どのような種類のプロテアーゼ活性が上昇しているのかをmRNAの発現という面から検討したところ、MMP-2と9、およびMMP-14であることが分かった。これらの結果や他の成績を総合的に考えて、子宮においてはタイプI,II,IVおよびVコラーゲンが内膜組織の筋層への侵入を防いでおり、お互いの位置関係が乱れるような場合は、上記の3酵素が異常に活性化されたためであることが明らかになった。
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