有機ナノクリスタル、半導体超微粒子、高分子凝集体、ミセル等の微粒子は、サイズ、モルフォロジー、構造の違いによって一個一個の機能・物性に個性があり、微粒子の光ダイナミクスを正確に解明するためには単一微粒子を分光計側することが要求されているが、微粒子一個の蛍光や吸収は極めて微弱なため、従来の顕微分光手法では極限られた物質系を除いて多数の微粒子集団の平均情報しか解析されていない。本研究では、単一微粒子の内部、特に表面・界面層で起こる光物理・光化学現象を高感度・高精度に計測することを目的とし、微粒子を光共振器として利用した全く新しいダイナミック分光計測法を開発した。本手法は、微粒子に色素をドープしてポンプし発光させると、表面波が発生し微粒子の周りを光がぐるぐると回りだして共鳴する微小球共振現象を利用したものである。これは一種のイントラキャビティー効果であり、発振強度の減少量から微粒子内部、特に共振器を形成する微粒子界面近傍における吸収を高感度に計測することができる。さらに、微小球共鳴によりピコ秒パルス発振が実現でき、このパルス光を利用すれば微粒子内の超高速現象をピコ秒の時間スケールで観測することが可能である。本研究を展開する中で、さらに、高いQ値の球形微粒子共振器の中で量子電気力学効果により自然放出のレートが数十倍も増強する現象を観測することに成功した。また、微小球における2種類の分子間のエネルギー移動ダイナミクスについても観測を行った結果、双極子・双極子相互作用によるエネルギー移動の効率がバルクにおける観測値に比べて30倍以上高くなることを見出した。微粒子に特徴的な光共鳴現象を用いて微粒子の分光測定を行う研究は世界的にも例がなく、全く新しいアイデアに基づくものであり、微粒子の光物理・光化学現象を解明してダイナミクスを制御することが可能になった。
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