研究概要 |
(1)オンチップ引張試験法の有用性を実証するために,標準材料として試験片の寸法が異なる単結晶シリコン薄膜の引張試験を行い,破断ひずみを測定した.これと並行して,バルク材に対しては3点曲げ試験を行って試験の結果を比較した.オンチップ引張試験法では単軸引張りによる伸びひずみの値は5%に達した.他方,バルクの3点曲げ試験の結果は1%以下に留まり,オンチップ法では試験片に大きなひずみを加えられることを実証した.また,オンチップ試験法においても試験片の寸法が小さいと破断ひずみが大きくなることが判った.これは,破断を決める最大寸法をもつ欠陥の存在確率が試験片長さに依存するからだとえる. (2)単結晶シリコン試験片に対して繰り返し荷重試験を行った結果,加えたひずみレベルが大きいと破壊寿命が小さくなる傾向を見いだした.これまでの研究では,シリコンは疲労現象を示さないといわれているが,実験結果は現象的にこれに反している.試験環境の大気に存在する水が亀裂の拡大に寄与(応力腐食)した可能性が考えられるが,次項(3)の結果から,真の疲労現象の可能性も捨てきれない. (3)高い引張り応力のもとで破壊に至るシリコン単結晶試験片の亀裂付近の挙動を観察するため,AFMプローブの先端にカ―ボンナノチューブを取り付けて,亀裂のプロフィルの時間変化をin-situ計測した.この結果から,室温下での塑性変形の存在の可能性を見いだした.今後,慎重にその裏付けをする必要がある. 以上の結果のうち,(2)(3)は,単結晶シリコンは常温では(少なくとも600℃以下では)引張り負荷モードで塑性変形,ならびに疲労を示さないという従来の常識に反するものである.今後の慎重な裏付け作業を必要とするが,微小材料にたいしてこれまでになく高いレベルの制御された応力を加えられる本試験法の特徴を生かして,新現象の追求にあたりたい.
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