研究概要 |
本研究は、長手磁気記録方式が直面している磁気余効現象に打ち勝つための材料設計指針及び薄膜作製技術を確立することを目的としている。本年度は、磁気余効現象に与える物理的因子を明らかにするために、(1)ウルトラクリーンスパッタリング法を用いての膜厚の異なる薄膜媒体の作成、(2)SQUID磁力計による残留磁化の時間に対する変化の計測、ならびに、(3)X線回折法およびTEMによる磁性結晶粒径、Cr粒界偏析構造等の微細構造評価、を行った。 1. ウルトラクリーンプロセスを用いて磁性膜厚を変化させて作成したCoCrTa薄膜媒体(Co78at%,Cr17at%,Ta5at%)において、室温では、磁性膜厚の減少とともに15nmから保磁力が低下することがわかった。しかしながら、測定温度を熱磁気余効の影響がないと考えられる低温10Kでは、保磁力が低下し始める磁性膜厚が10nmへと変化することがわかった。したがって、室温における磁気余効の影響は、膜厚が15nm以下の膜厚の薄膜媒体において顕著となることがわかった。 2. SQUID磁力計による残留磁化の測定時間に対する変化の測定より1年後の残留磁化の減衰率を推定した結果、膜厚の減少とともに減衰量が増加することがわかった。特に、1nm以下の膜厚の媒体では1年後の残留磁化の減衰量が急激に増加することがわかった。 3. TEMにより求めた磁性結晶粒径は膜厚の減少とともに微細になることが明らかとなった。 4. 磁性結晶体積vと結晶磁気異方性エネルギーKuの積と熱エネルギーkTの比であるvKu/kTと残留磁化の1年後の減衰量との相関を検討した。その結果、vKu//kTの減少とともに減衰量が増加することが明らかとなり、残留磁化の1年間での減衰量を5%以下に抑えるには、vKu/kTとして40以上、結晶磁気異方性エネルギーとして3×10^6erg/cm^3が必要となることが明らかとなった。
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