研究概要 |
平成10年度は「短パルスレーザ照射時における各種材料のアブレーション各現象の時間的・空間的高分解能計測」を主として行った.その概要を以下に示す. 1) アブレーション加工特性に及ぼすレーザ波長の影響調査 各主材料(アクリル樹脂,黒鉛,金属シリコン,ガラスエポキシ樹脂,ステンレス)にナノ秒パルスレーザを照射した場合のアブレーション穴あけ加工特性を調べた.照射したレーザ波長はQスイッチYAGレーザの第2高調波(λ=532nm),第3高調波(λ=355nm)及び第4高調波で(λ=266nm)で照射エネルギーは mJから mJの範囲でパルス時間は2-8nsである.アクリル樹脂を用いて穴あけ加工特性を調査した結果,第2高調波及び第3高調波ではナノ秒パルスにも関わらず穴周辺に熱影響部がみとめられること及びレーザの照射回数の増加と共に割れが発生し熱加工特有の現象を示すが,第4高調波では熱影響部は殆ど認められず量子加工的になることが確認された. 2種類の黒鉛,すなわち熱伝導率が等方性を有する黒鉛と異方性を有する黒鉛を用いて除去加工特性を調べた.先ず,除去量と波長の関係では,いずれの材料でも波長が短くなるほど除去量が少なくなる.一般に波長が短い程ビーム吸収率が高くなるため除去量は多くなるはずであるが,実験の結果はこれに反するものである.また,熱伝導率が等方性黒鉛の1/50の異方性黒鉛の除去量は等方性黒鉛よりも少ないことが明らかになり,熱伝導論から類推される結果と正反対の現象が明らかとなった.この原因はレーザ照射中に発生するプラズマと入射ビームとの相互作用に起因するものと考え,次項の実験を遂行した. 2) アブレーション加工時のレーザ誘起プラズマの定性的分光計測 2種の黒鉛についてレーザ照射中及び照射後のプラズマ発光強度の変化を調べた.この結果,熱伝導率の悪い異方性黒鉛ではプラズマ発光が等方性黒鉛よりも早く始まり,かつ発光強度も遥かに強い.この事実は異方性黒鉛の方がレーザ照射初期に急激に蒸発し高圧プラズマが形成されるため,レーザ照射の後半過程ではプラズマ吸収のため入射ビームが試料表面に届かなくなるため加工が進まなくなることが明らかとなった. また,ステンレスにナノ秒パルスレーザを照射した場合,照射後半過程から強い連続スペクトルが現れ,その後レーザ照射後可成りの時間を経過した後連続スペクトルは次第に輝線スペクトル(鉄の中性線)に変化することが初めて観察された.なお,当初予定していた「アブレーション加工部変質層のミクロ材料科学的解明」についても実験を進めたが,上記1)の実験に大半の時間をとられ結論を出すには至らなかった.
|